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東京地方裁判所 昭和42年(ワ)10371号 判決 1968年6月27日

原告 昭和信用金庫

代表者代表理事 阿川昌朝

訴訟代理人弁護士 亀岡孝正

同 高瀬迪

被告 株式会社・丸新プラスチック

代表者代表取締役 新名寛

訴訟代理人弁護士 末政憲一

同 復代理人弁護士 吉原大吉

主文

原被告間の当庁昭和四二年手(ワ)第三五六八号約束手形金請求事件の手形判決を全部認可する。

異議申立後の訴訟費用は被告の負担とする。

事実

当事者双方の求める裁判及び原告の請求原因事実とこれに対する被告の認否は、いずれも主文掲記の手形判決の事実摘示記載と同一であるから、これらをここに引用する。

被告は抗弁として次のとおり述べた。

(一)  本件手形の裏書欄の記載からみると、第一裏書欄の被裏書人の氏名である昭和信用金庫(原告名)が、第一裏書人である訴外信州化学工業株式会社でなく原告の手に依って抹消されている。すなわち、無権限者によってしかも第一裏書に依る本件手形交付後に抹消されたことが、本件手形の裏書欄の記載自体によって明らかであるから、右の第一裏書は全部抹消されたものとみるべきである。とすると、原告は裏書の形式的連続を欠く手形の所持人となり、本件手形により請求することはできない。

(二)  かりに、右主張が容れられないとしても、本件手形の振出は次の事実にもとづいてなされたものであり、原告は右事実を知り被告を害することを知って本件手形を取得したものであるから、原告の請求には応じられない。

すなわち、本件手形の受取人訴外信州化学工業株式会社の代表取締役藤沢富治及び本件手形の第二裏書人である訴外山田一郎の両名は共謀の上、被告から借受金名下に本件手形等及び現金を騙取するために、昭和四二年三月三一日原告に対し宅地担保による金員借受けの申入れをし、訴外山田所有(但し登記簿上は訴外小山光男所有名義)の東京都渋谷区広尾町五丁目二八番五八号宅地三二坪一合九勺、同所同番の六二号宅地一一坪一合五勺及び同所同番の六三号宅地三七坪五合六勺を、右が真実は私道として使用されていて、宅地として使用できないものであるのに拘らずこれを秘し、現地案内に際しては宅地として使用し得る他の土地を原告に示し、右私道を担保に提供して原告から現金六八万五〇〇〇円及び本件手形を含む額面金額合計四二九万四〇〇〇円の約束手形計一一通を訴外信州化学工業株式会社宛に振出し交付させたものである。

そこで被告は昭和四二年五月五日頃右訴外藤沢富治に送達した書面をもって前記訴外会社に対する本件手形振出行為を取り消す旨の意思表示をした。

原告訴訟代理人は、被告主張(一)は争う、同(二)は否認すると述べた。

証拠≪省略≫

理由

原告主張の請求原因事実は当事者間に争いのないところである。

よって被告主張(一)について按ずるのに、原告が本訴において所持する本件手形の裏書欄の記載自体からみると、その第一裏書における被裏書人欄の昭和信用金庫という表示が二本の線をもって抹消されその抹消部分に昭和信用金庫という押切印が押捺されていることが明らかである。したがって右抹消が誰れに依っていつなされたかという実体的な点はともかくとして、裏書の記載自体から形式的これをみれば記名式裏書の一部である被裏書人の表示の抹消が存することとなる。ところで、手形法一三条二項が白地式裏書を認めていることならびにその方法として、単に被裏書人を指定せずにとか裏書人の署名のみを以て、とか規定していて、その被裏書人非指定の方法についてとくに抹消の方法によるそれを適式なものとして排除していないこと及び同法一六条一項にいわゆる抹消したる裏書とは、右一三条二項との関係上裏書人の署名もしくは記名捺印の抹消のみをいうものである、と解すべきことからみて、被裏書人の表示のみの抹消によって当該裏書全部の抹消ありとみるのは正当でなく、右抹消部分は当初から記載がなかったものとして、白地式裏書があったものと解すべきである。

したがって、被告の(一)の主張は採用できない。

つぎに、被告の(二)の主張について按ずるのに、本件において取り調べた全証拠を検討しても、被告の本件手形振出行為が訴外藤沢富治及び訴外山田一郎の共謀による欺罔行為にもとづくとの点及び原告のこの間の事情知悉の点についての証拠は全く存在しない。したがって、被告の右主張も採用できない。

そして、当事者間に争いのない原告主張の請求原因事実に依ると、原告の本訴請求は全部法律上理由がある。

そこで民事訴訟法四五七条、四五八条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 安藤覚)

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